林 信成(IVRコンサルタンツ)
2011年9月9日からミュンヘンにて開催されたCIRSE 2011に参加した。今回は中3日間だけの参加となったので、その範囲での報告となることをお許しください。昨年は5600人を集めたCIRSEだが、今回もおそらく同じかそれ以上の参加者であっただろう。会場も展示場も、多くの参加者でごった返していた。市の中心部からは30分くらいかかる比較的不便な場所での開催なのだが、参加者が5000人を超えた今となっては、歴史のある欧州都市の中心部でそれだけの学会場は確保できないのだろう。したがって今後もこういう状態が続くと予想される。ただそれにしても、来年のCIRSE 2012がリスボンでの開催というのは少しショックだった。リスボンは確かに素晴らしい都市ではあるが、2年前2009年に開催されたばかりである。同じような思いを抱いた人は多いだろうから、きっとよほどの事情があるのかもしれない。
日本からの参加者は60名を超えたくらいだろうか、比較的中堅以下が多かったようで、会場でも多くの参加者を見かけた。ただ学会が大きくなって平行するセッションがあまりに増えたためだろうか、学会場で顔を合わせる機会は以前より減っているように思う。学術口演発表が9列も平行で走るのは、いくら何でもあんまりではなかろうか。
毎回書いているように、CIRSEは会場の配置が巧みである。入り口からは、機器展示場を通らないとセッション会場に行けない。そして展示場には小腹を満たすデニッシュやお菓子などがあちこちのブースに置かれているのだが、ミュンヘンでの開催とあって、生ビールやシャンパンが振る舞われたり、白ウインナーソーセージまで用意されたりしていた。さらには本物のBMW車体を使ったドライブゲームを楽しませるブースもあった。やはりスナックや飲み物が無償提供されるメンバー専用ラウンジは、昼休みなどはかなり手狭になってきている。ただ飲食こそ提供されないものの誰もが休める学会ラウンジには、ゆったりとした椅子が多数配置されていた。いつもながらCIRSEのロゴをあしらったTシャツが、1人1枚プレゼントで配布された� ��
今回はこの時期のミュンヘンとしては異例なほど天候に恵まれ、殆どの日が晴天で暑いくらいであったが、会場もレストランも冷房は弱かったり無かったりで、米国の学会場でのように寒さに震えることがなくて助かった。ちょっと郊外を走れば1ブロックに1軒くらいは太陽光発電装置を屋根につけた民家を見るくらいだから、やはりドイツ国民の環境意識は古くから筋金入りである。以下、いつものように興味深かったセッションを中心に報告する。聞き取りミスや細かな数字のミスについてはご容赦ください。
CCSVI(脳脊髄静脈機能不全)
まずHot Topic Symposiumに取り上げられたのは、何度か報告してきた「頸静脈や奇静脈の狭窄をPTAすることで、多発性硬化症の症状が緩和される」という件である。マスメディアに大きく取り上げられたことで、米国を中心に難治性の患者が多くの施設に殺到し、医療ツーリズムの大きな目的の1つになっている。すでに全世界で2万人もの患者が本治療法を受けたそうであるが、きちんとした臨床試験は1本もなく、いわゆる脳脊髄静脈機能不全と多発性硬化症の因果関係に関しては、ほとんどの神経内科医の雑誌やAJNRなどが否定的な見解を表明している。それでもSIRは、「新たな飯の種」ということでワーキンググループを作り、「慎重な適応を求めながらも積極的に進めていきたい」姿勢が見え見えである。
一方CIRSEは、「現時点では何のエビデンスもない」として、本治療法に極めて否定的な立場を堅持し、正式な臨床試験以外で本治療法を施行することに警鐘を鳴らしている。今回のシンポジウムでは、推進する立場の演者はStanford大学のDr.Dakeだけであり、彼自身も多くの治療例、奏功例を経験してはいるものの、Prospectiveな臨床試験を行ったわけではなく、他の演者全員から袋だたきにあっていた。ただ彼の論旨も簡単に言えば、「米国では、患者が医療ツーリズムとして受診して治療を受けているので、ランダム化比較試験の実施は不可能である。資金的にも無理がある。CIRSEこそランダム化比較試験をしてほしい」とお願いするだけだったので、彼にしては最初から負け戦で弱かった。それでも最後に前会長や司会者から「絶望的な� �者に嘘を売るな」「私たちはビジネスマンではなく医師だ」とまで言われてしまっていて、さすがに不憫に思った。確かに私も、この治療法はあまりにも科学的根拠に乏しいと感じている。しかしそれでも、この治療で改善した患者が多数存在することは間違いない。確かにそれはプラセボ効果によるものかもしれないし、その可能性が高いのだが、それでも治るのなら、そして自費診療で合併症なく治療されるのなら、患者にとっては良いことなのではと思う。やはりプラセボ効果かもしれないセメント注入による経皮的椎体形成術には寛容でこれを施行し続けているのに、あまりに不公平ではなかろうか。慢性疲労症候群、線維筋痛症、適応障害など、客観的エビデンスに乏しいまま診断される疾患は、ますます増える一方である。米 国では特に、「全身倦怠」だけで多発性硬化症と診断されて高額な神経内科的治療を受けている患者が多数いるようなので(したがって神経内科医にとってはとても大きな飯の種であり、彼らの多くは本治療法を敵視している)、プラセボ効果で緩解するなら、ある意味素晴らしい治療であろう。わが日本では、病院での1回数百円の治療費自己負担を高いと訴えながら、1時間5000円以上のマッサージが大好きな国民が多数いるのだから。
アレルギーショット動作しますか?
Renal Denervation
これも数年前からずっと報告し続けている、「腎動脈周囲の交感神経を、腎動脈に挿入したカテーテルからRFAすることで、高血圧を治療する」方法である。特に新しいデータは出ていなかった。Single armのI/II相試験であるSIMPLICITY 1に登録された153人は、24ヶ月後も穏やかに血圧が下がり続けていた。同じ治療プロトコールを用いた第III相ランダム化比較試験であるSIMPLICITY 2は、190人を目標に、すでに100人以上が割り付けられて、ほぼ同様の良好な6ヶ月中間成績を出している。興味深かったのは、同様のコンセプトで凍結や超音波による交感神経破壊を企図した研究が進んでいることであった。将来的には体外集束超音波のような、より非侵襲的な治療が可能となる時代が来るのかもしれない。この治療法に関しても、シャム手技とのランダム化比較試験が必要だという意見があったが、それはさすがに要らないだろうと思う。ただこの治療法は、かなり痛いようである。これは恥ずかしながら知らなかったので、新しい知見として記しておく。
私はプロゲステロンやサプリメントを見つけることができました
末梢動脈
放射線科医のシェアが衰退の一途をたどる米国とは対照的に、欧州のIVR医たちは元気である。FDAのような厳しい規制がなく、医療の自由度がある程度高いからかもしれない。私が一番注目していたのは、薬剤溶出能を持つ生体吸収性ステントであったが、これについては臨床試験の成績はまだで、動物実験のデータしかなかった。「短期的な有害反応を短時間の薬剤溶出で抑え、長期的な拡張力をステントで維持し、ステントによる長期的な内膜過形成を生体吸収性によって無くせる」という、理論どおりに事が運べば理想的なステントである。実際、動物実験のスライドを見ると、1年くらいまではポリマーのステントなので内膜はむしろ厚いが、2年くらいで溶けてなくなり、4年後には全く正常の血管に復していた。問題は、ヒトの� �活習慣や薬剤服用遵守であろう。動物と違って人間は、性懲りもなくタバコを吸ったり薬を勝手に中断したりする生物だから。なお過去の単純な生体吸収性ステントは、ポリマー製もマグネシウム製も、再狭窄が多くて臨床試験でPTAに負けてしまったことを、参考までに記しておく。
薬剤溶出性バルーン(Drug Eluting Balloon)は、単にコーティングされているだけで短時間で薬剤放出が完了する(塗布されるのみ)ことから、DCB(Drug Coated Balloon)と呼称が変わってきている。薬剤溶出性ビーズと紛らわしい限りである。これはTHUNDER試験やLUTONIX試験の成績が良かったことから、多くの企業が参入し、10種類くらいの製品が市販あるいは市販準備段階のようである。短くて石灰化の少ない病変が対象だから、それほど大きな市場があるのか疑わしく思うのだが、現実に欧州では信じがたいほど積極的である。CEマークが緩いのと、ステントのように異物を残さないことが、やはりそれほどの魅力なのだろう。結晶状のCrystallineコーティングという触れ込みで溶出能(塗布量)を高めた新製品も出ていた。ただコーティングの剥がれを避けるためにシースを直前まで入れたり、長いセグメントに対応するため2本使ったり、高度石灰化に対応するためアテレクトミーを併用したり、と前 途はまだ少し多難に思われる。製品自体の価格もかなり高かった。これは競争原理によって低下していくのであろうが。
従来より報告していた金属ステントに関して、特に新しいデータはなかったように思う。Zilver PTXは相変わらず絶好調である。24ヶ月後の無有害事象生存率が、非糖尿病患者で88.7%、糖尿病患者でも84.
cellutitiousは何ですか?4%をキープしていた。この報告が出るときにはフランスで保険償還が可能となっているはずである。日本発のMisagoも素晴らしい成績を維持しているようで聞きたかったのだが、会場が超満員の立ち見状態だったため聴講を断念した。色々と異なるアイデアの製品が続々と出てはいても、やはり金属ステントはいつもメインストリームである。
アテレクトミーでは、SilverHawkを用いた臨床試験DEFINITIVE LEの6ヶ月中間解析の成績が報告され、良好な結果を維持していた。800人を目標に50施設が参加しているが、476人で6ヶ月後の評価が完了し、糖尿病の有無で有意差を認めず、長い区間の病変でも良好な成績を示していた。振り返ればアテレクトミーは20年以上前に登場し、当初こそ熱い期待を背負いながらも、再発が少なからず生じるために廃れていったのだが、過去の様々な弱点に対処して開発された製品なので、それなりに適応はあるのかもしれない。
個人的に最近大きなショックであったのは、JVIRやCVIRなどで何度も素晴らしい成績が報告されていたカバードステントの末路である。Global IVR Trendsで要約やコメントを書く度、「ホンマカイナ」と思っていたのだが、臨床試験によって見事に結果がひっくり返ったのである。ステント端で狭窄が生じる頻度は1年で87%もあった。あの異常に優れた初期成績を報告した人たちには総懺悔してもらいたいものである。表面をヘパリンでコーティングし、ステント端を改良した新製品が出ているが、おそらくもはや多くの人は信じないだろう。メチャクチャ値段も高いし。昔レーザーでも同様のことがあった。最新のレーザー製品でさえも、せいぜいステントの必要本数を少し減らせるだけで、半数以上が結局はステントを必要とするようである。Cryoplastyもカッティングバルーンも、似たようなところがある。特にCryoplastyは、講演で「No Advantage」と切って捨てられていた。企業主導の症例集積報告や、企業から多大な献金を受けて宣伝に貢献してきた「その道の大家」の講演内容は、今まで以上に眉に唾つけて見聞きする必要があろう。
欧州のIVR医はもともと、膝窩部以下の動脈へも果敢にチャレンジを続けてきたが、薬剤溶出性ステントを用いたACHILLES試験もDESTINY試験も成績は良好のようで、この部位へのステント留置治療に拍車がかかりそうである。確かにPTAだと解離やリコイルも多いし、ステントのニードが高いのはわかるのだが、そこまであれだけ細い血管に「機械的」な治療を進めることに限界はないのか、もっと側副血行路形成を促進する方向の方がよくはないのかと、個人的には思う。なお足部の治療では「Angiosomeに即した治療を施す」という考え方が一般化しつつある。まだご存じない方は少し調べて勉強してください。
なおControversy Sessionでは長区間SFA閉塞の治療がテーマの1つに取り上げられ、PTAに反対する立場の演者が、Edinburgh試験の成績を強調していた。これはPTAと監督下運動プログラムを比較したランダム化試験であり、歩行可能距離において、6ヶ月後では差があったが2年後以降は差がなかったというものである。同様の報告は他にもある。ただ問題は、どちらの治療法を受けるにせよ、「禁煙その他の背景因子のコントロールが極めて重要だ」と言うことである。現時点における長いSFA閉塞の治療成績は、間違いなく外科手術の方が経皮的治療より優れている。前述のようにステントグラフトがこけたから余計そうであるし、長期的にはステント破損の問題もある。「間歇性跛行の患者の大半は保存的に治療すべきであり、残りは外科的バイパス(2年開存率81% 、5年開存率61%)が妥当」との主張は、データ的には正当性があろう。ただ患者のニーズ・生活・生命予後を考えれば、やはりPTAを希望する患者が多かろう。会場の大半も、ほとんどがIVR医だということもあり、経皮的治療に票を挙げていた。
腎動脈PTA
この問題はControversy Sessionで、「Renal PTA is dead」という刺激的なタイトルで論じられた。確かに近年はずっと、極めて難しい問題であり続けている。何度も書いてきたように、今までに行われたすべてのランダム化比較試験で、「腎動脈PTAは最良の薬物治療に対して優位性を示せていない」のが事実である。ASTRAL試験の主任研究者であるDr.Mossは、世界中のIVR医から非難を浴びた本試験について解説し、さらに本試験以外のランダム化比較試験を含めた総括的なメタアナリシスの結果(1208人が対象、経過観察期間29ヶ月)などを示し、「服用する薬剤量が少し減る以外にベネフィットを証明するエビデンスは皆無である」と主張し、最後の大規模試験であるCORAL試験もまた否定的な結果に終わるであろうことを予言して終えた。「腎動脈PTAはまだ死なない」と主張する演者は、今までの ランダム化比較試験の問題点を指摘するばかりで、これは今までにも報告してきたとおりである。ドパミン刺激下で圧測定して適応を決めるべきとの主張も、臨床の現場からは解離しているだろう。結果として会場はそれでも、「まだ死なない」を支持したのだが、問題はそういうことでなく、「適応を厳格にすべきだ」ということではないかと思う。腎動脈狭窄とともに、難治性の高血圧や反復性の肺水腫、また進行性腎不全などが存在する症例に対して行われることには、反対する者は少なかろう。以前のように、「狭窄が見つかったからすぐ拡張/ステント」というやりすぎは間違いなく過った治療であり、どちらが良いか迷うような症例に積極的な治療を施すことも、支持するエビデンスは存在しないのである。
なおDr.MossはGrunzig記念講演の演者でもあったが、彼の講演が始まるとともに、ほとんどの出席者が席を立った。ASTRAL試験で相当に嫌われたのかもしれない。様々な問題があったとはいえ、科学的には正しいことをしたのに不憫な限りである。彼はEBM-not HOW but IF and WHENというタイトルで講演し、最後はNOWだという答えで締めくくった。ランダム化比較試験は大変だとか難しいとかいうけれども、薬剤と比べれば遙かに簡単である(CEマークはすぐ取れる。取れたらすぐに開始できる、2~4年で結果が出る)ことを強調していた。ただ一番驚いたのは、「介護施設にいる86歳の閉塞性化膿性胆管炎による敗血症女性が時間外に来院したが、経皮的ドレナージは施行しなかった。患者は数日後に亡くなった」というエピソードである。もちろん彼も、数年前なら間違いなく施行していたのだが、現在の英国では、IVRの全ての症例が、外科手術と同じAudit of Surgical Mortalityに登録を義務づけられている。状態の悪い患者に対する時間外の緊急PTCDの死亡率は60%にも上るので、「危険な手技」として施行できないというのである。「救えるかもしれない命」に対して手をさしのべられない悔しさは医療関係者なら誰しもあるだろう。しかし経済学的に言えば、「救われなかった命」に使われた医療費は無駄であるし、日本では「無理して延ばすことの意義が問われている命」もたくさんある。経済成長が止まった超高齢化社会において、私たちは難しい選択を迫られている。
透析
透析シャントPTAのセッションにも出席したが、超満員で驚いた。Dr.HaskalはNEJMに掲載されたステントグラフトの話をされたが、会場の反応は今ひとつであった。これはやはり、米国のシャント手術がいまだに世界基準から遅れているからだろう。グラフトが多いし、体外式も少なくない、自家動静脈シャントといってもかなり太いところで作成している。患者背景がこれだけ違うと、討論がかみ合いづらい。彼も講演が終わるとさっさと会場を後にしていた。
圧巻は最後のDr.Rodriguesによる「盗血症候群」についての講演であった。この疾患がいかに見逃されているか、いかに治療が難しいかを情熱的に話された。手首では2%の頻度だが上腕動静脈シャントでは28%もの頻度で生じること、盗血量が少なくても生じること、診断の決め手は指尖部のカラードプラ超音波検査であることなどが語られた。しかし一番胸に響いたのは、「本疾患に関して、文献では素晴らしい治療成績が報告されている。しかし、そんなのは嘘っぱちである。現実には治療はとても難しい」という教えだった。単一施設のRetrospectiveな治療成績をそのまま信じる人など今ではいないであろうが、それがGold Standardのように伝えられてしまった事例はたくさんある。前述のSFA用カバードステントやCryoplastyと同じで、「第三者の目が入らない成績」は、安易に信じてはならないのである。
大動脈ステントグラフト
他のシンポジウムと重なって、これに関して聴講できたのはControversy Sessionのみであった。ここでは「60歳の患者に生じた直径5.5センチの腹部大動脈瘤」という具体的な例に対し、血管内治療と外科手術のどちらを選ぶかという討論が繰り広げられた。今までの臨床試験のほとんどは、外科手術と同等の成績を示しており、成功率や予後に影響を与えるのは、年齢よりも血管解剖その他の背景因子である。つまり、現存するデータの多くは「血管内治療でも可」としているのだが、会場の8割は手術に軍配を上げていた。これはやはり、再IVRが必要になったり瘤嚢が縮まなかったりする症例を多数経験してきたからなのだろう。そして毎年CTを撮像することによる被曝の問題もかなり重視しているところが欧州らしかった。
塞栓デバイス
血液に触れるとコイル周囲のポリマーが膨潤するHydrocoil(AZUR)のシンポジウムに参加した。このコイルは脳動脈瘤の治療(再環流の頻度を減らす)を主たるターゲットに開発された製品であるが、末梢動脈への応用も大いに期待されている。最初はイヌの腎動脈・腸骨動脈での結果が報告され、通常のファイバーつきコイルに比べると、1ヶ月後・4ヶ月後の再開通頻度が少ないことが示されていた。また組織的にも、通常のコイルでは血栓の占める体積が70%であるのに比して、Hydorocoilでは40%と低い量であった。ただ脳血管用に開発されたからだろうか、柔らかいので30%オーバーサイズのものを使用することが推奨されていた。
次の演題は、本コイルを用いた胃十二指腸動脈の塞栓であった。この手技はリザーバー治療で日本のIVR医が飽きるほど行ってきた手技であるが、日本で全身化学療法の発達とともに動注リザーバー治療が激減した一方で、欧米ではRadioembolizationの普及で症例が急増しつつある。演者は連続23例の胃十二指腸動脈塞栓をこのコイルで行い、すべて1本のコイルで塞栓に成功し、逸脱例や再開通例がなかったと述べていた。従来のようなアンカーテクニックを不要とする手技だということである。
最後の3つ目が、個人的には一番面白かった。Hydrocoilのポリマーのみで造られたコイルである。目的は、CTによるアーチファクトの軽減である。これも動注リザーバー治療でたくさん経験したことであるが、コイルが多数入っていると、そしてCTが安物だと余計に、このアーチファクトは診断の邪魔になる。もちろんポリマーだけでコイルを造ると視認性を有しないので、ちょうど「透視では見えるがCTでのアーチファクトはほとんどない」濃度でバリウムが混和されているのである。すでに0.018インチが市販されており、0.035インチもまもなく使えるとのことであった。欧州での認可の早さは本当にうらやましい限りである。
別の日にArtventive社のEOS( Vascular Plugの対抗馬である。AVPでは従来型コイルを併用しなければならない症例が少なくないので、前述のHydrocoilと同様に、1個ですむ選択肢が増えて喜ばしいことだと思う。問題は日本での承認プロセスだけである。
肝腫瘍
アドリアマイシン溶出性ビーズであるDEB/DOX(DCB改め)は、ギリシャからの5年成績の報告が良くまとまっていた。PRECISION Vよりも小さな製剤(100~300および300~500ミクロン)を用い、平均5.6(1~9)回のTACEを施行していた。30日死亡率は1.2%、3年生存率は62%、5年生存率は22.5%、そして生存期間はChild Aで48.7ヶ月、Bで36.7ヶ月だから、日本のIVR医が驚くような数字では全くない。しかしながら、データを細かく見ていると、日本に比べて大きな進行例が多数含まれていたので、結局は日本と同等の成績を既に彼らも出しているのだと見るべきであろう。Child Aでは主腫瘍が5センチ超か否かで差が見られた。一方Child Bでは、大きさでは差は見られなかったが、多発例か否かでは差があった。「初回奏功例・Child A・5センチ以下・単発」で、それぞれ予後が良いというのは、予想通りの結果であろう。RFAを追加しても予後に差がなかったが、ソラフェニブの併用では少し改善したとのことである。これらのデータには少し興味があるが、これらは臨床試験でないと本当のところはわからない。
そのDEB/DOXによるTACEにソラフェニブを併用するSingle Armの第II相臨床試験は、中間解析の結果がLate Breaking AbstractでDr.Geschwindから発表された。243人が来院し、エンロール率は16%である。適応外が60%もあったことを考えると、さほど低くない数字であろうし、やはり患者背景がまだ10年以上前の日本の状況に似ていることを窺わせる。登録されたのは35人で、安全性には問題が無く、進行までの期間に改善が見られるようであった。しかし彼の発表はいつもながら異常に早口で長く、座長が「時間オーバーだ」と止めると「あと1分ある」と応じて最後は喧嘩になり、とても後味が悪かった。しょうもない。
少し衝撃的であったのは、Biocompatibleのシンポジウムで講演されたイリノテカン溶出性ビーズであるDEBILIの成績であった。この製品は60分くらいかけてゆっくりと薬剤を溶出するので、動物実験では24時間後も高い組織内濃度を示し、VX2腫瘍では24時間後により高い壊死率を示していた。一番重要なのは、大腸癌肝転移に対する2年間のランダム化比較試験の成績が出たことである。74人の患者がDEBILIによるTACEを2回受ける群36名と、FOLFIRIを8コース受ける38人に無作為に割り付けられた。DEBILIは300~500ミクロンの大きさで25㎎/mLの製品が使用されていた。患者の多くが既にFOLFOXをはじめとする多くの治療を既に受けていたが、平均腫瘍個数4、腫瘍径4.5センチとはいえ、奏功率68.6%、生存期間中央値23ヶ月、無進行生存期間7ヶ月と、FOLFIRIのそれ ぞれ20%、15ヶ月、4ヶ月より有意に優れていた。また必要経費も、DEBILIが7000ユーロに対してFOLFIRIは2400ユーロと安かったとのことである。参考にしていただきたい。さらに、進行までの期間もQOLも有意に優れていたし、局所制御の結果であろうか肝外再発までの期間も有意に延長していた。
DEBILIではさらに、M1と呼ばれる70~150ミクロンの小さな粒子を用いたTACEも試みられていた。昔から肝転移の治療を行っている日本のIVR医なら何度も経験していることだが、Hypovascularな腫瘍であっても、じわっと造影剤が染み入っていく腫瘍がかなりの頻度である。それは腫瘍によって、注入位置や速度によって、塞栓剤の大きさによって、異なっている。粒子径を小さくすると腫瘍内部まで入りやすくなり、これによって奏効率が高まることが期待されている。ただ合併症のリスクも当然高まるだろうから、きちんとしたランダム化比較試験をした方が良いかもしれない。
肝腫瘍に関するHot Topic Symposiumでは、Controversy Sessionと同じような形で、肝転移・肝細胞癌それぞれについて、画像ガイド下治療と外科手術が、互いの優位性を主張しあった。正直言って、こういった討論はもうたくさんである。RFAにしても外科手術にしても、リアルワールドでは術者の技量の差を考慮せずに治療の選択はできないのだから。ちょうど帰国する際に待合室で日本の新聞を読んだら、肝臓専門医たちを招いての一般向け講演会の模様が掲載されていた。司会者が「医者の当たり外れで命が左右されるのは困る」と発言したのに対し、幕内先生が「外科医による腕の差はものすごくある」と堂々と真実を述べておられた。IVRであれ外科治療であれ、専門技術者によって成績の差が出るのは避けられない。この当たり前の事実を受け入れようとしてくれないマスコミや患者、自 分に都合の良いデータしか出さない医師こそ問題なのだと思う。司会者はいきりたって「一般の人がブラックジャックのような医者を探すのは困難だ」と言っていたが、そもそもブラックジャックなんか現実社会にはいないし、彼は自費診療で億単位の報酬を請求するのである。自己負担数千円で世界有数の術者に診てもらえ、大手術を受けても1月10万円以内で収まる医療費を「高い」と糾弾するマスコミや一部政治家はいったい何なのだろうか。不安をあおる家庭医学や誇張のかたまりの「神の手」番組は、いい加減やめてほしいものである。
機器展示
CIRSEの機器展示場は、前述したように配置が秀逸で、いつも大勢の顧客で賑わっている。ただ画期的な新製品には乏しかったように思う。閉塞部をクロスするためのRFワイヤー(PowerWire)、復権を目指している改良されたマイクロウエーブくらいだろうか。前者は小さな会社の小さなブースで、実演がなかったため、SIRでCrosserを見たときほどの衝撃は無かった。Crosserの時は何しろ、実物を使って粘土に穴を開けていたから。
マイクロウエーブは数年前から報告しているように、RFAによって完全に駆逐されたかのように見えていたのが、装置の改良によって再び最前線に立つ機会を窺っているように見える。RFAよりも強力で早いのだから、過去に熱心に取り組んだ日本のIVR・消化器内科医にとっては「それみたことか」になるかもしれない。
肝臓だけを体外循環させるCHEMOSATは、Delcath社が5年間に大規模な開発投資を行って製品化にこぎつけたようだが、基本的には20年前に神戸大学の外科で行われていた治療とほぼ同じシステムであった(肝細胞癌で5年生存率20%)。抗がん剤の進歩やデバイスの改良で少しは良くなっているのかもしれないと期待したが、少しがっかりな結果であった。治験の対象はメラノーマの肝転移で、Melphalanを用いて奏効率50%とのことであったが、標準治療と比較した第III相ランダム化試験においては、全体の生存期間に有意差は見られなかった。残念ながらメラノーマの少ない日本では特に、適応症例はほとんどないだろう。
機器展示で見たのではないが、Late Breaking Abstractで、呼吸停止が必要な部位のRFAにおけるテクニカルノート的な発表に興味を持った。酸素を細い管から間歇的にジェット状に肺に送り込む方法が紹介されていた。Acutronic Monsoonという装置で、毎秒150~180サイクルで注入できるとのことである。ただ気管内挿管とセットで行われるし、ボストン大学の渡邊先生に聞いたところ、やはり気胸の発生率が高いようなので、面白い方法だが、なかなかルチーン化には至らないだろう。
その他
Rosh記念講演は、Dr.Trojannowskaによる「EBMと頸動脈ステンティング」という講演だった。これは素晴らしかった。私は頸動脈ステンティングが登場して以来、その頸動脈内膜剥離術との闘いをずっと見てきている。エビデンスレベルIであるランダム化比較試験の成績が、試験によって大きく異なることを思い知っており、術者の選択がいかに大切かがよくわかっているつもりである。前述の肝腫瘍と同じで、術者の技量と経験で成績が大きく異なるのである。経験の少ない未熟な術者が多く含まれた試験では、その合併症は当然多くなる。しかしそれがレベルIのエビデンスとして残れば、一人歩きしてEvidence-Biased Medicineとなり、多くの医師や患者をミスリードしてしまう。特に頸動脈ステンティングのような新しい治療手技においては、術者の経験によるLearning Curveが見事に出るし、それは各種の研究でも証明されている。また経験豊富で上手な術者を揃えて非劣勢を勝ち取ったCREST試験よりも、市販後のRegistry試験の方が、さらに合併症の頻度が低いのである(Regisryなので信憑性は劣るが)。彼女はRegistry試験によってリアルワールドを反映させることの重要性とともに、EBMにQuality Improvementを併用することを勧めていた。EBMは「正しいことを成す」ための方法であり、Quality Improvementは「ことを正しく成す」ための方法なのだと。そして最後に、常に患者と「Shared Dicision Making」することの必要性を説かれた。まさにお見事でした。
以上、中3日間の参加だったが、いつもながらCIRSEは盛り上がって楽しい。会場がホテルから遠いのが数少ない難点だが、会場内に入れば寒すぎずに快適に過ごせる。たった2年でまたリスボンというのはショックだが、やはりまた来年も頑張って参加しようと思う。
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